東京高等裁判所 昭和25年(う)3260号 判決
被告人 渡辺和夫
〔抄 録〕
第二点について。
原判決挙示の証拠によれば被告人は判示二記載のように現に銀行預金もなく、又期日までに金員預入れの見込もなく、従つて期日において不渡りとなることを了知しながら、前示のように大川に対する代金の支払に充て、且つ他から金融を受ける目的で、判示先日附小切手を振り出し、不渡となるべき情を知らない、大川をして、右小切手は期日後何時でも銀行より支払を受けうるものとして判示のように福田和雄を欺罔し、判示金員の交付を受けさせたことを認めうるのであつて、以上のように情を知らない第三者をして他人を欺罔させ因て右第三者に財物を受領させた場合でも刑法第二百四十六条第一項の詐欺罪を構成することは勿論である(大審院大正一五年(れ)第四二二号同年五月二九日第四刑事部判決)から原判決の認定並びに法令の適用には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
註 当審の認定した詐欺事実の要領は「被告人はOの依頼により同人所有のサラダ油三斗五升を他に売却し、同人から再三その代金の支払を請求されたのでその支払に充て併せて他から金融を受ける目的で、予てS銀行と当座預金契約を結び小切手帳を所持しているのを幸とし、小切手を用いて他から金員を騙取しようと企て、右銀行に対する預金残高が一円八十五錢にすぎず且つ後日小切手金を支払うに足りる金員を預け入れる見込もないのに、六・一六頃前記小切手用紙を使用し、振出日を七・一七と記入した金額三万三千円の小切手一通を作成した上、右小切手による金策方をOに依頼し、右小切手が不渡に陥るべき情を知らないOをしてその頃I方で同人に対し、右小切手はその記載の振出日以後は何時でも右銀行から右小切手金の支払を受けうるものの如く装い右小切手による金員貸与方を申し入れさせ、Iをその旨誤信させ因て同人をして即時同所でOに右小切手による貸金名下に金二万九千円を交付させて騙取した。」